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2010年10月31日 (日)

国家試験受験生は民法(債権法)改正にどう対処すべきか

一、はじめに

 最近,国家試験受験生の間で,次のような噂が流れています。すなわち,来年,民法債権法(一部民法総則も含む)が改正され,しかも,その内容が膨大であるため,その理解ができないと来年(あるいは今後)の国家試験には合格できない,などということが,『まことしやかに』ささやかれています。

 このような噂が『まことしやかに』ささやかれていることの原因は,どこにあるのでしょうか。これは,おそらく,次の点にあるように思われます。

 第一は,法務省がバックアップした『民法(債権法)改正検討委員会』(鎌田薫早稲田大学教授が委員長でした)が,民法の債権法を中心とする領域について約2年半にわたる作業を経て,20094月に民法抜本改正の基礎となる『債権法改正の基本方針』(以下『委員会案』という)を公表し,しかも,法務省のバックアップでその委員会案を英訳して世界に発信しているほか,詳細な解説書が,商事法務から,5巻にわたる立派な書籍(全体で約3,000頁になります)で発刊されているため,債権法の改正はこれで当然に成立するとの錯覚さえしそうな勢いだからです。

 もう一つは,民法改正研究会(加藤雅信上智大学法科大学院教授が代表者です)があり,日本民法典財産法改正 国民・法曹・学界有志案・仮案(平成2110月。以下これを『研究会案』といいます)を公表するに至っています。こちらも,研究者が相当な量の解説を発刊してきましたし,これからも発刊していくことになっているようです。ただ,研究会案は委員会案とは異なって,民法全体に検討が及び,しかも条文まで作っているという点でも参考になります。これは,かなり早くから全体的な作業をしたものであり,専門家の間では大いに注目されています。

 これらの書物が書店にたくさんあるために,国家試験受験生は,もう債権法の改正の内容は決まっており,すぐにでもその改正法案が国会で成立するかのような錯覚に陥っているように思われます。

 第二は,インターネットの発達により,弁護士・司法書士等が,安易に,しかも,無責任な形で,債権法改正に関する不正確な情報をタレ流しており(もちろん,中には,債権法改正について的確な分析をしているホームページ・ブログもあります),そのホームページ・ブログ等を見た国家試験受験生は,当然のことでありますが,法律(改正法を含みます)の成立についての詳細な手続過程を知らないために,その債権法改正に関する不正確な情報をうのみにしてしまい,まさに,債権法の改正について錯誤に陥ってしまっているためです。

 第三は,一部の受験予備校の一部の講師が,債権改正法の成立過程及び国家試験の実施日が改正法の成立・施行時期に接近している場合における国家試験の実施の仕方についての正確な理解がないために,受験生に対して誤った受験指導をしており,当然のことでありますが,その指導を受けた受験生側にも,債権改正法の成立過程についての正確な理解をする能力がないため,債権法の改正法案の成立時期について錯誤に陥ってしまっているからです。

 そこで,国家試験受験生は,この債権法改正にどのように対処すべきかにつき,以下検討します(結論的にいうならば,平成25年までに国家試験受験を考えている受験生の方は,現行債権法について勉強しておけば足り,それで十分だと思います)。

二、法務省所管の重要法案の成立過程

1.一般論

 法務省所管の重要な法律は,次のような手続を経て成立し,公布され,施行されます。

(一)まず,法務省内部に,学者や官僚(裁判官・検事を含む)を中心とする研究会ないし勉強会(これは少なくとも建前上は私的なもの)を発足し,そこで,法律案(改正法案も含む)の中身について議論し,『たたき台』を作ります。

(二)つぎに,上記の研究会での議論が煮つまりその内容が固まると,その研究会の報告書が一般に公開されることになります。

(三)さらに,上記研究会報告書の内容を踏まえて,法務大臣が,法務省の公的な法律案の審議会である『法制審議会』に,法律案の中身について諮問を行います。そして,法制審議会は,諮問を受けると,その法律案について審議するための部会を設置し,具体的な審議に入ることになります。

(四)さらにまた,法制審議会の該当部会(たとえば,会社法部会・民法部会)での議論が十分尽くされたということで一段落すると,その法律案の中身についていわゆる『中間試案』が公表され,一般に対する意見募集手続(パブリック・コメント)が行われることになります。

(五)その後,上記意見募集手続で集められた意見を踏まえて,法制審議会の該当部会でさらに議論が進められ,最終的な法律案の『要綱』が法制審議会の総会で採択され,法務大臣に答申されます。そして,通常,この段階で,専門雑誌(商事法務・NBL等)において,『要綱』についての詳細な解説が該当部会長からなされることになり,また,その立法手続に関与した法務省民事局参事官等の手になる論文・書物が発表されることになります。特に,先の商法改正におきましては,法制審議会会社法部会長である前田教授・江頭教授・担当の法務省民事局参事官等による詳細な解説がなされました。

 注意すべき点は,学者が法律の制定(改正法案の制定を含む)に関与できるのは,ここまでの手続だということです。

(六)さらに,上記の『要綱』をベースにして,法務省の官僚達(商法改正の時は,会計学が密接に関係するために,弁護士と公認会計士が1名ずつ参加しました)が法律案を具体的な条文の形で作成し,内閣法制局(これは裁判官出身などのお偉い法務官僚が幅を利かせている役所)の審査と閣議決定を経て,国会に提出されることになります。

 なお,平成17年の商法改正の場合には,この段階において,会社法部会の委員である学者達がせっかく作成した『要綱』をあたかも無視するような形での条文作り(特に,要綱段階では全く議論もされなかった『会計参与』という概念もいきなり登場した)がなされたために,その後,法制審議会会社法部会が記者会見をし『抗議声明』を出したこともあります。

(七)最後に,上記『法律案』が国会の衆参両議院で審議され(なお,国会では法務委員会が審議を担当しますが,その国会議員の能力不足及び審議時間が少ないために,実質的かつ十分な審議がなされることはありません),それが無事可決されれば,まさに法律として成立をして公布され,施行されることになります。

2.民法(債権法)改正の場合

 今回問題となっている民法債権法の改正の場合,現在,法律(改正法を含む)の制定の7段階のうち第3段階にあるにすぎません。したがって,法制審議会の民法(債権法)部会の『中間試案』がまだ公表されておりませんので(平成23年に中間試案の公表が予定されているといわれています),現在予想できることは,大体,前述の『委員会案』の内容とほぼ同様の内容になるのではないかということです。これは,改正検討委員会の委員長である鎌田薫早稲田大学教授が同時に法制審議会民法(債権関係)部会長であるだけではなく,改正検討委員会の委員であった者の多くが同時に法制審議会民法(債権関係)部会の委員(20名)または幹事(28名)になっている点から推論できることです(なお,20名の委員中,弁護士が2名にすぎず少なすぎるというところにも,委員の構成面において問題があるように思われます。

三、債権法改正の基本方針の具体的内容

今回の民法(債権法)改正法案が最短期間すなわち平成25年に施行されると仮定した場合もで,会社法施行の際に,当該国家試験実施日には既に施行されていたのにもかかわらず,その年に限っては,あらゆる国家試験が既に失効している改正前の旧商法に基づいて実施されたという事実(国家試験の実施日が改正法の成立・施行時期に接近している場合における国家試験の実施の仕方)からしますと,民法(債権法)改正法に基づいた国家試験が本格的に実施されるのは,早くても平成26年からということになると思われます。このように考えられますので,まだ『中間試案』さえも発表されていない段階で,債権法改正の基本方針の内容を書くということは,国家試験受験生を困惑させる原因となり得ますので,私としましては,不本意でありますが,多くの国家試験受験生が誤解し,錯誤に陥っていることでもありますので,この基本方針の一部について説明致します。

1.民法(債権法)改正の目的

 今回の民法(債権法)改正の目的は次の点にあります。

 第一に,民法を市民にとって理解しやすい法典にすること。

 第二に,民法の内容を現在の社会経済情勢に適合させ,取引ルールの国際的調和を図ること。

 第三に,これまで法典外で解釈により認められていた部分を明文化し,基本的ルールとしての民法典の透明性を高めること。

 そこで,今回の債権法改正においては,一般的にはルールの改正とともに,これまで当然のこととして規定されていなかった事項や,判例上認められてきた理論等(たとえば,契約締結上の過失や事情変更の理論等)について明文で規定することが検討されています。

2.債権法改正の基本方針の具体的内容

 全体的に考えますと,いわゆる債権法総論の分野についての改正が中心であって,債権法各論の分野についての改正はほんの一部であるといえます。

(一)債務不履行責任について

 まず,債務不履行について,これまで履行遅滞,履行不能,不完全履行の三つの類型に分類して理解されてきましたが,基本方針では,これを統一化して理解すべきであると指摘しています。

 つぎに,債務不履行に基づく解除の要件について,履行不能の場合でも『債務者の責めに帰すべき事由』の有無にかかわりなく,『重大な不履行』があったことを解除の要件とすることが提案されています。

 さらに,債務不履行に基づく損害賠償請求権の要件について,これまで『債務者の責めに帰すべき事由による』すなわち『債務者の故意又は過失による不履行』であることが必要と解されていましたが,基本方針では,『客観的な不履行の事実』があれば損害賠償請求権は発生し,『契約において債務者が引き受けていなかった事由』によって債務不履行が生じた場合には損害賠償責任を免除するという考え方が提案されています。

(二)債権者代位権について

 現在の債権者代位権行使の場面では,解釈論として,債権者が第三債権者から直接弁済を受け,債権者の債務者への返還債務と,債権者の被保全債権との相殺を認めてきました。

 しかしながら,債権者代位権のこのような行使方法は法が本来予定しているものではなく,債権者代位権は裁判外で行使が可能という容易にその行使が可能な権利でありますので,このようなメリットを与える必要性が小さいという考えから,基本方針では,事実上の優先弁済を否定することを提案しています。

 基本方針では,このような観点から,債権者代位権の改正については大胆な提言をしています。

(三)債権者取消権について

 現在の詐害行為取消権においては,『受益者の悪意』が要件となっています。

 しかしながら,基本方針では,取消しの対象となる行為が贈与等の無償行為又は無償と同視できる有償行為であるときは,受益者の悪意を要件とせず,受益者が債権者を害することを知らなくても,とにかく取り消すことができることが提案されています。

 ただし,この場合に,善意の受益者が返還する義務を負うのは『現存利益』にとどまることを提案しています。無償で利益を受けている受益者を保護する必要性が小さいことと,善意の受益者を保護する必要性があることを勘案し,このような枠組みを提案しています。

 基本方針では,このような観点から,債権者取消権については大胆な提言をしています。

(四)危険負担について

 現行法上,危険負担は,双務契約において一方当事者の債務が,債務者の帰責性なく履行不能となった場合,相手方の債務が存続するのか滅失するのかを規定しています。

 しかしながら,基本方針では,債務者の帰責性がなくとも履行不能となれば『契約の重大な不履行』があったことになり,相手方としては解除権を行使して自らの債務を免れることにあります。これは,債務の履行不能により生じる問題は,全て解除により解決しようというのが基本方針の考え方ですから,基本方針では『危険負担の規定』の廃止が提案されています。

四、民法(債権法)改正とパブリック・コメント(意見募集手続)

 学会・弁護士会の有力メンバーからかなりの抵抗がありますが,法務省の思惑どおりに改正手続が進めば,平成23年の春頃に民法(債権関係)改正についての『中間試案』が公表され,いわゆるパブリック・コメント(意見募集手続)が行われることになりますが,一般にこの意見募集手続は,その内容(量)の如何にかかわらず,中間試案が公表されてから『1ヶ月くらいの期間』を定めて行われています。つまり,今回の民法(債権法)改正のような『膨大な分量にのぼるであろう中間試案』についても,1ヶ月足らずで検討し,その点について意見をまとめなければならないことになるわけですが,このようなことは神様でもできないことです。

 しかも,上述のいわゆる『基本方針』につき検討をし意見を述べればよいのか,というとそうではなく,少なくとも建前上は,上述の『基本方針』は法制審議会の民法部会における審議の前提とはしないということにされていますので,まさに『中間試案』が正式に発表されたら,その中間試案そのものについて1ヶ月くらいの間に意見を述べなければならないことになるわけです。

 ところで,重要法案の審理におけるパブリック・コメント(意見募集手続)というものは,平成11年頃の閣議決定に基づき行われるようになったものであり,その意見というものは誰でも出すことができるというのがその大きな特徴です(ただ,実際上は,有名大学の法学部の真面目な当該分野の担当教授達がその大学を代表するような形で意見を述べるというのが多いです)。しかし,これは法案の中身や分量に関係なく意見募集期間は一律に『1ヶ月程度』であり,しかも一つの法案に関して意見募集手続は1回しか行われませんので,実際上,今回の民法(債権法)改正のような膨大な分量の法案については,意見を出したいと思っても,なかなかその検討が追いつかないというのが実状です。

 このような法務省の運用をみますと,法律の改正等の場合,一応形だけは『民意を聴く』という手続はとるが,結果としては『民意を採用することはありません』と言っているのと同様に思われます。

 そこで,法務省が,法律の改正等の場合に,本当に『民意を聴く』と考えているならば,今回の民法(債権法)改正のような『膨大な内容』の場合には,少なくとも『3ヶ月以上のパブリック・コメントの期間』を設定する必要があります。

 会社法や個人情報保護法の制定などのように,最近行われた新法の制定や法改正のように,十分な検討が行われずに見切り発車で法改正が行われますと,その結果として,実務において相当混乱を生じさせることになってしまいます。

 そこで,もし,法務省の思惑どおりに,平成23年にいわゆる『中間試案の公表』,つづいて『要綱の作成』,そして平成24年か平成25年頃に法案成立などというスピード審理が行われ民法(債権法)改正が行われれば,その後10年間くらいは,その改正法の解釈をめぐり,あらゆる分野で実務上混乱を生ずることになります。したがって,この改正手続はきわめて慎重に行わなければならないわけです。

 しかも,現行民法の条文は1044条までですが,今回の債権法の全面改正が行われた場合,どのような条文作りをするかにもよりますが,きわめて有力な弁護士グループの考えによると,少なく見積もっても1500条から2000条(このくらいの条文数になっても外国と比べると,多すぎるということはありません)くらいになるのではないか,と予想されています。

 このような大改正をたった34年間の検討で行うというのは,まさに『暴挙』という以外にありません。このように考えるのが,東京弁護士会の有力メンバー,大学教授達の一般的な立場です。したがって,今回の債権法改正につきましては,もっと時間をかけて慎重に行わなければなりません。

四、結論

 今回の民法(債権法)改正手続には以上のような問題があります。それにもかかわらず,法務省の思惑(?)どおりに改正手続が行われて,仮に平成24年ないし平成25年に改正法案が成立したとしても,先の商法改正の場合,国家試験の実施日には,既に新会社法が施行(平成17年に成立し,平成1851日から施行)されていたのにもかかわらず,その年(平成18年)に限っては,まさに既に廃止され,効力を失っている『旧商法に基づいて実施された』という事実があります。また,民法(債権法)改正の内容がいくら大改正であるといったとしても,現在,国家試験の受験生が勉強している内容のすべてが変わってしまうわけではなく,その変わることのない範囲内での,『国家試験問題の作成という形』で実施されたこともあり(法務省民事局参事官達にはそのような能力が十分あります),そのために,改正法施行時期の国家試験の委員の中には,その改正手続に深くかかわった法務省民事局参事官等が必ず入ることになっています。

 さらに,現行法の内容についての理解だけでも大変なことであり,ほとんどの国家試験受験生はその理解すらできていない(その理解ができていれば,もはや受験生ではなく,合格者となっています)実状からするならば,現時点において,国家試験受験生が,債権法の改正内容についても勉強するなどということは,明らかに誤まった受験勉強の仕方ということになります。今まで,法改正が行われた場合も,その改正法の施行後1年間はその改正内容は基本的には出題されなかったわけです(ただし,例外もありました)。したがって,国家試験受験生は,あまり法改正にこだわる必要はありません。責任ある受験指導機関であるならば,その法改正には十分対応できるような受験指導を行っていくからです。

 結局,あえていうならば,平成26年以後に国家試験受験を考える受験生の方は,改正債権法の勉強をすべきでありますが,平成25年までに国家試験受験,そして合格を目的とする受験生の方は,現行債権法の内容を徹底的に勉強する必要があり,それで十分であると思います。

 なお,私としましては,民法(債権法)改正についても,『要綱』が正式に公表された場合には,その要綱についての解説を書き,この分野についての教材等の改訂作業に入ります。

 このようにして,受験法律研究会としましては,法律の改正があった場合には,どこよりも早く改正法の内容に基づいた教材等の改訂作業を行いますので,改正法が現実に施行された後,改正前の内容の教材(CD・MD・カセットテープ・書物等)を販売することはありません。

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